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2026年11月06日

悠久の輝き(後編)

「第78回正倉院展」に出展されている珠玉の宝物の魅力を、奈良国立博物館の研究員が紹介します。今回は後編です。

鳳凰や霊獣 筆致軽やか

◆密陀彩絵箱(みつださいえのはこ)(縦30cm、横45cm、高さ21.4cm)

 黒漆塗りの箱で、中は仕切り板で縦に二つに分けられている。今は入っていないが、蓋の中央に貼られた紙によれば、丁香と青木香の2種類の香木が入れられ、東大寺の仏前に奉納されたことがわかる。丁香は香辛料の丁子(クローブ)、青木香は漢方薬ともなる植物の根で、どちらも現在までお香の原料に用いられる。蓋を開くと、豊かな香りが広がったことであろう。

箱の外側は黒漆塗りの上に、赤色からかなり白っぽい色まで、橙(だいだい)色系の色を濃淡をつけて用いて、軽やかな筆致で文様が描かれている。蓋は中央に蓮肉(れんにく)上面のような円形の意匠が表され、その周囲を旋回するように忍冬唐草文とともに羽を広げた不思議な生き物が表される。側面も同様の文様で、全体に躍動感のあるリズミカルなパターンが魅力的である。

蓋に表される羽を広げた鳥のような生き物は鳳凰(ほうおう)で、羽を持ちながらも魚のような顔であるのは仏教世界の怪魚としてしばしば造形化されるマカラを踏まえた霊獣であろう。

本品の色彩や文様は、飛鳥時代の作と考えられる玉虫厨子(法隆寺蔵)に施される文様とよく似ており、天平盛期の華やかな表現とは一線を画す一時代前の趣がある。飛鳥時代に作られ、後に東大寺に奉納されたと考え得るが、あるいは奈良時代に作られた飛鳥時代風の箱かもしれない。

奈良国立博物館保存修復室長 北澤菜月
(2026年11月3日付 読売新聞奈良県版掲載)

古代ガラス たたえる光

◆白瑠璃瓶(はくるりのへい)(胴径14.0cm、高さ27.2cm、重さ634g)

下ぶくれの胴にくちばし形の注ぎ口、後ろに大きな把手(とって)をつけたガラスの水差しである。「白瑠璃(はくるり)」とは無色のガラスのこと。現代のガラスのように素材の純度が高くないため、無色透明ではなく、わずかに青緑色を帯びている。コーラの瓶をもっと薄くしたような色だ。

吹き竿(さお)で膨らませた時、表面にかすかな横縞(しま)が生じており、大小の気泡とも相まって、古代ガラスの「景色」となっている。風格ある姿はそのまま展示しても素敵だが、色についても魅力を引き出したい。

そんな思いもあり、今回の展示ではケース内の真上からメインのスポットライトを当て、下に敷いた銀板で反射光を拾う、特殊な照明を工夫した。その結果、器の中から光を発するような美しい姿となった。光の加減で細かなところも見えやすく、注ぎ口の後ろに立つ突起は、把手の頂部をぐっとつまみ上げて作った様子までよく分かる。くびの締め加減、くちばしの尖(とが)らせ具合は絶妙で、ここから流れ出る水は、細くきれいな一本筋を描くことだろう。

この華奢(きゃしゃ)な水差しは西アジア生まれ。海か陸かは分からぬが、遥か数千キロの旅路を無傷で日本に渡ってきた。今まさに、その奇跡をたたえる光に包まれて、よろこびの輝きを放っているようである。

奈良国立博物館学芸部長 吉澤悟
(2026年11月4日付 読売新聞奈良県版掲載)